「結婚不要社会(山田昌弘著)」を読んだ結婚相談所所長のまとめと感想

よすが結婚相談所へようこそ。

所長の立川です。

「結婚不要社会(山田昌弘著)」を読了したので、自分なりのまとめと感想を書いておきたいと思います。

それにしてもこのタイトル、なかなか刺激的ですよね。

山田先生と言えばこれまでも「格差社会」「パラサイト・シングル」「婚活」と言った時代を表す言葉を数々生み出されてきた方ですが、今回の「結婚不要社会」も非常に鋭い視点であるように感じました。

 

この本から読み取った内容を私なりに以下にまとめます。

 

導入

  • 結婚は男性にとって「イベント」であり、女性にとって「生まれ変わり」
  • 日本社会は90年代を境に「いつでも結婚できる」から「なかなか結婚できない」へ変化
  • 日本で起きた結婚の質的変化は、ヨーロッパやアメリカで起きた変化とは異なる
    • ポイントは、ヨーロッパやアメリカでは変わらず恋愛が盛んである一方、日本では「恋愛が衰退」したこと

 

結婚の定義と社会的機能

  • 結婚のミニマムな定義は「性関係のペアリングに基づく恒常的関係」
  • 結婚の社会的機能は「結婚した二人の間に生まれた子どもは、その男性が父親であると社会的にみなす」ということ(嫡出原理)

 

結婚の効果

  • 個人にとって結婚する効果は「経済的」と「心理的」の二つ
  • 経済的効果
    • 結婚した二人は、身分や職業階層、生活水準、名誉などが原則的に同一になる
    • 子どもが生まれた場合は何らかのかたちで共同の養育も行われる
  • 心理的効果
    • 言語的(話す・聞く)、身体的(見る・さわる)、物的(あげる・もらう)コミュニケーションが自然に障害なく行われている状態になる
    • 社会的には、結婚したら「仲が良くて性的な関係性を満足させているはずだ」と見なされる
  • この二つの効果のどちらを重視するかは時代や文化により異なる
  • 前近代的社会の結婚は「経済的効果」も「心理的効果」も夫婦以外の要素に強く影響されるものだったと言える
  • これに対して近代社会は、結婚相手以外の人に経済的責任を持つ必要が無いし、結婚相手以外の人と楽しく過ごしてはいけないという文化
  • 結婚は出産は個人のものとされながらも、社会全体は結婚や出産に依存しているという矛盾が存在する

 

近代社会の結婚の特徴

  • 最大の特徴は「結婚相手」や「結婚をするかしないか」という選択肢が個人にできたこと
  • イエの家業がなくなり核家族化が進んだ近代においては、自分が育ったイエではなく、親から独立して築く核家族が「生きがい」になる
  • 近代社会において結婚しないということは「経済的な孤立」と「心理的な孤立」という深刻な二つの孤立を同時にもたらす
  • 前近代社会では結婚の「経済的効果」「心理的効果」を一人の相手に全て求める必要が無かったが、近代社会では配偶者に全てを求める必要がある
  • 前近代社会にはあった未婚者の居場所が近代社会には無く、結婚が個人にとって「不可欠」なものになった
  • 結婚しないと、経済生活や情緒生活、親密生活というものに困難をきたす近代社会は「結婚不可欠社会」と言える

 

「結婚不要社会」への変化

  • 変化の要因は「経済格差」「性の自由化」「離婚の自由化」
  • それらの変化により「結婚によって『経済的効果』と『心理的効果』が得られる」とは、必ずしも言えなくなった

 

日本と欧米の結婚状況の違い

  • 日本では「結婚すれば経済は同じ」と思われているが、欧米では「結婚しても経済はそれぞれ別」と思われている
  • 欧米では夫婦が「家事」「育児」「経済生活」をお互いに頼れない、という意識が浸透する中で「結婚不要社会」になった
    • 欧米では夫婦の経済が別だからこそ、結婚では愛情のみを重視する
  • 一方、日本では「家事」「育児」「経済生活」はお互いを頼るもの、という意識があるため「結婚困難社会」となっている
    • 日本では夫婦の経済が同じなので「経済力があり愛情もある」相手としか結婚できない。これが日本の結婚難の構造である

 

本の結論

  • 欧米はパートナー圧力(パートナーがいないとみっともないという意識)が強く、幸せに生きるために結婚は不要だが、親密なパートナーは必要という社会
  • 日本はパートナー圧力が無く、幸せに生きるために親密なパートナーと結婚するか、独身でパートナーがいなくてもなんとか幸せに生きられる社会
    • 日本には決まったパートナーがいなくても、親密性を満足させられるような装置がたくさんある(この点は山田先生の別の著作で扱われる予定とのこと)
  • 欧米も日本も同じ「結婚不要社会」であると言えるが、その構造は全く異なる

 

非常に切り口鋭い、読み応えのある本でした。

よく巷で言われる「欧米は結婚にこだわらなくても幸せに生きられるのに、日本人は結婚にこだわりすぎ!」という話がこれまでイマイチ理解できなかったのですが、この本を読んだことでその理解が自分なりにクリアになったように思います。

この本を読んで私なりに日本と欧米の社会を整理すると「日本社会には結婚圧力があり、欧米社会にはパートナー圧力がある」という表現がしっくり来ます。それを整理したのがこの記事冒頭の画像になります。

少し難しいですが非常に面白い本なので、結婚について深い理解を得たい方にはおすすめの一冊です。

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